物語


遠き日に繋がる、夏の体温。
灯火は誘う――現と幻の、裂け目へと。



 転居から10年の時を経て、生まれ育った山村へと足を踏み入れた
主人公・永井桐人(きりと)。その目的は、
村に遺してきた生家を、完全に引き払うためであった。
 成長を遂げた、幼なじみの加茂カナタとの邂逅と、
久しぶりに四肢に染み渡る田舎での生活は、
都会での生活に疲れた桐人の心に、潤いに似た安堵感を与えていた。

 しかし。




 夜、偶然見かけた二匹の蛍。何気なく、その飛び行く先を追いかけているうちに、
桐人は村で奉られている神社へと導かれる。
 そこで感じたのは、幼少の頃には微塵も感じることが無かった、深い闇。

 その日から、見慣れた田舎の風景は一変した。桐人の心を徐々に蝕む、
深遠から染み出す空気。彼の心は徐々に虚妄に支配され、
自分自身を維持するための葛藤の時間を必要としていくことになる。
 そんな中――誰もいないはずの神社で出合った、一人の少女。
その瞬間、桐人の見知った世界に大きな亀裂が走り――
彼は、村に埋もれていた禁忌へと呑まれていく。




 村に残る、謎の風習。
 
 「夜に大声を出してはいけない」
 「夜に人と争ってはいけない」
 「月の無い夜に、女性は人前に姿を見せてはいけない」

 全て、同じ苗字の村民。

 神社の奥に奉られているという“祠さま”。
 夏の日差しの裏側にある、月光さえも届かぬ世界。
 その目に映る幾多の灯火は、何を導き、何を語りかけるのか――。